原題/英題:Heftig og Begeistret/Cool &Crazy
出演: ベルレヴォーグ男声合唱団
監督: クヌート・エーリク・イェンセン Knut Erik Jensen
言語 ノルウェー語
ジャンル:ドキュメンタリー
2001年/ノルウェー/105分/カラー
■2001年シカゴ国際映画祭 ドキュメンタリー部門 ゴールド・ヒューゴ(最優秀賞)受賞
■2001年ノルウェー国際映画祭 年間最優秀映画部門&ドキュメンタリー映画部門 アマンダ賞(最優秀賞)受賞
ノルウェーで1年以上ロングランヒットしたドキュメンタリーの話題作。
ドキュメンタリーで多くの秀作を生むイェンセン監督は、四季折々の自然を背景に、合唱団の営みを追ってゆく。
ノルウェー最北端の小さな漁村、かつて漁業で栄えた町ベルレヴォーグ。
今では魚工場が一つだけの小さな町で、人口はわずか1200人。
平均年齢60歳の団員30名の、平生からロシア遠征までを追う。
冒頭、団員たちの脈絡のない思い出話を次々聞かされることに戸惑うが、何分かして各人の見分けがつくと、彼らの人生における俳優ぶりが心地よくなってくる。クスリ漬けだった過去を語る人、若い頃は女には困った事が無かったという恐ろしく腹が出た不細工なおじさん、三つ子の孫娘の名前を未だに覚えられないおじいさん、ロシアに傾倒しレーニンが世界で一番の英雄だと信じているおじさん、二人でデブであることをお互いからかい合うかわいくて醜いおじさんたち。
出てくるおじさんおじいさんどもは、日本のへんぴな田舎へ行けばかならず集団でいる、素朴で贅沢とは無縁の人々。
過疎地に共通している就職難、想像を絶する北の大地の自然の厳しさ。
しかし、ノルウェーの美しい自然は光るように四季を通じて溢れ、日本の田舎とは歴然とした差を持って並ぶカラフルな家たち。
家の中ですら、地味なおじさん達とは相反する壁の色。
リビングは鮮やかな黄色、キッチンは朱色、バスルームは水色...
去年訪れたコペンハーゲンもそうだったが、北欧に共通するデザイン性の高さがこんな田舎町にもしっかりと色づく。
それが画像として美しい。
映画では、のちのちサウンドトラックとして再度お金を稼げるはずの雰囲気を彩るクラシック調の音楽はない。
そのすべては合唱団の歌。
荒れ狂う極寒の日本海を想像させる海のしぶきの前でも、その表情さえ見えづらいほどの吹雪の中でも、海辺にぽつんと立つ灯台の螺旋階段に整列して、教会で、彼らの合唱が静かに力強く歌う。
まともな職だって自由に選べはしない、贅沢をするゆとりは経済的にだけではなく環境的にもありはしない。
それでも彼らの歌には生きることの素晴らしさと誇り、喜びがあふれていた。
歌詞がすばらしい。
説得力がある。キラキラしている。
両足をしっかと大地に据え、人前で歌うときにはとびっきりのおめかしをする。
でも頭にはセーラー帽。
セーラー帽は海の男の誇りだ。
その合唱団がロシアから公演の依頼を受け大型バスでロシアへと向かう。
その頃にはどっぷりと映画へ引き込まれている。
バスの中では子供が遠足に行く時と同じようにおっさんどもははしゃいでいる。
そこが、ロシアとの国境を通過した途端に一変する。
私はこのあたりのシーンが最も印象的であったし、ドラマティックでもあった。
ロシアへ入国し、いきなり町並みは荒廃し、「色」が無くなる。
さびた工場と煙突がそびえ立ち、人を寄せ付けたくないと主張しているかのような共産主義丸出しの寒い町。
あれほど厳しい北の大地で暮らしているおっさんどもだが、その変化に表情はみるみる厳しいものになっていく。
一人のおっさんが言った、
「この町で僕を笑顔にするものはない」
荒れ果てた大地に元気よく立っている木もない。
そこから環境問題の話へと白熱する。
それはいつしか原発の話になり、ロシアとアメリカの冷戦時代への政治的な話になる。
政治の話になれば普段仲良しこよしのおっさんたちだってケンカになる。
ロシア人に対する批判が出ると、今でも共産主義に傾倒している団員が必死でソ連の弁護をする。
共産主義者=ソ連擁護というわけだ。
それでも「女性大好き」なおじさんたちはコンサートの後の宴をそれはそれは楽しみにしている。
出発前に奥さんと二人で旅支度をするおじいさんが、「ロシア女性とチークダンスを踊ってもいいかい?」と奥さんに尋ねる。
「もちろんいいわよ。あなたは上手だもの。」
これは長年連れ添ってきた信頼を揺るぎないものとしている間ではないと発せない会話だろう。
心がぽっと暖まるような感覚になった。
もちろんロシアでの公演はスタンディングオベーションを受け大成功。
車いすの指揮者もサイン攻めだ。
ドキュメンタリー映画というのは実は私は初めて観たかもしれない。
常日頃から抱く北欧へのあこがれと、アメリカ映画よりヨーロッパ映画を好むようになった最近、自然と手が伸びた一枚だった。
偶然とはいえ、すばらしい傑作と出会えた。
これほど厳しい環境下で暮らしても、これほどまでに前向きに、「自然」と「生きること」に感謝し続けられる人々が存在するのだ。
きっと、あの北欧独特の家々や内装のあでやかな色も人生の色を染めているに違いない。
そうとしか思えない。
東京で育ちながら、私にはどうしても無機質なビル群、訳の分からない下品な電光掲示板、みだらに並ぶ家、緑を探すのに苦労を要するこの町に、未だに自分をはめ込むことができずにいる。
それは、合唱団のおっさんたちがロシアの荒廃した町で自分を笑顔にするものを見つけることに苦労してしまうのと同じに違いない。
(でも女性がいればすぐに笑う)
ハリウッド映画の十八番といえば、
「ワーッと災難が降り掛かり、妻に愛しているよと伝え、奇跡すぎる奇跡で苦境を乗り越え、最後にはアメリカ星条旗を背中にひるがえしながら、神よありがとう....」
というような映画にちょっと飽きてきたら、この映画を観てみても損はしないかも。
もちろん、私も大好きです、アメリカ映画。
green